ゆれる
2008-10-21(Tue)
兄弟の心の奥底に閉ざされていた心理がえぐり出され、
暴露されていきます。
ゆれる心情・・・そのすごさに、私もゆれた・・・

監督:西川美和
製作:2006年 日本
出演:*オダギリジョー *香川照之 *真木よう子
あの橋を渡るまでは、兄弟でした。
心理描写の見事な事!
それも、敢えてあからさまにしたくないような深層にある意識を
鋭く引き出して見せてくる。
この細かい技巧は、女性監督だからなのかな。
それから役者二人とも、こちらが前のめりになるくらい素晴らしかった!
兄ミノル(香川照之)・・・田舎に住み家業を継ぎ、父と暮す独身。
実直で責任感が強く、信望も厚い。
弟タケル(オダギリジョー)・・・都会に出てカメラマンとなり、
女にもモテて自由に暮す。奔放でその場しのぎが多い。
性格も環境も対照的な兄弟が、
吊橋での出来事をきっかけに変化していきます。
この時、一緒にいた幼馴染みのチエコ、
後半になると影がすっかり薄くなるけど、
チエコは兄弟の葛藤の一つのきっかけになります。
彼女もゆれていましたね。
タケルと再会しなければ、そのままミノルと上手くやっていたかもしれない。
でも、昔好きだった男は都会の象徴として自分の目の前に現れる。
田舎に埋もれたくないと思っていた彼女は、タケルを追いかける。
客観的に見て、タケルが前夜チエコと関係を持ったのは、
兄に対する嫉妬からで愛情などはありませんでした。
兄はそんな顛末に薄々気付いていて、
チエコを行かせたくないという心情から、吊橋の上を追いかけます。
その時、彼女は吊橋から川へ転落。
事故なのか殺人なのか?
ハッキリした映像はなく、まるでその場を目撃したようなタケルの
表情だけをカメラは捉えています。(こういうのに騙されちゃう)
その後、裁判になっていくんですが、
事故か殺人か よりも、兄弟の間に埋もれている深層心理が
次々と浮かび上がってきて、すごい緊張感が漂ってくるんです。
兄弟って小さい頃から、立場が決まっていたり比較されたりして、
微妙な競争心や羨望や嫉妬を感じるものですよね。
それが大人になって、家を守るとか親の面倒をみるなどの
局面において人生を左右され、
両者の間に横たわる何かがさらに大きくなったりします。
ミノル達の父も、弁護士の兄と確執があるように。
兄弟だから許せる場合と、ずっと根に持ってしまう場合と、
その心理は複雑です。
その複雑さが裁判での証言にも影響して、
記憶が歪められてしまいます。
このあたりの吊橋の映像の出し方も上手くて、
いちいち、これが真実だなどと思わされてしまった。
記憶なんて曖昧なもの。その人の思い込みで変化してしまうのだ。
この先の「追記」は私の勝手な解釈です。
暴露されていきます。
ゆれる心情・・・そのすごさに、私もゆれた・・・

監督:西川美和
製作:2006年 日本
出演:*オダギリジョー *香川照之 *真木よう子
あの橋を渡るまでは、兄弟でした。
心理描写の見事な事!
それも、敢えてあからさまにしたくないような深層にある意識を
鋭く引き出して見せてくる。
この細かい技巧は、女性監督だからなのかな。
それから役者二人とも、こちらが前のめりになるくらい素晴らしかった!
兄ミノル(香川照之)・・・田舎に住み家業を継ぎ、父と暮す独身。
実直で責任感が強く、信望も厚い。
弟タケル(オダギリジョー)・・・都会に出てカメラマンとなり、
女にもモテて自由に暮す。奔放でその場しのぎが多い。
性格も環境も対照的な兄弟が、
吊橋での出来事をきっかけに変化していきます。
この時、一緒にいた幼馴染みのチエコ、
後半になると影がすっかり薄くなるけど、
チエコは兄弟の葛藤の一つのきっかけになります。
彼女もゆれていましたね。
タケルと再会しなければ、そのままミノルと上手くやっていたかもしれない。
でも、昔好きだった男は都会の象徴として自分の目の前に現れる。
田舎に埋もれたくないと思っていた彼女は、タケルを追いかける。
客観的に見て、タケルが前夜チエコと関係を持ったのは、
兄に対する嫉妬からで愛情などはありませんでした。
兄はそんな顛末に薄々気付いていて、
チエコを行かせたくないという心情から、吊橋の上を追いかけます。
その時、彼女は吊橋から川へ転落。
事故なのか殺人なのか?
ハッキリした映像はなく、まるでその場を目撃したようなタケルの
表情だけをカメラは捉えています。(こういうのに騙されちゃう)
その後、裁判になっていくんですが、
事故か殺人か よりも、兄弟の間に埋もれている深層心理が
次々と浮かび上がってきて、すごい緊張感が漂ってくるんです。
兄弟って小さい頃から、立場が決まっていたり比較されたりして、
微妙な競争心や羨望や嫉妬を感じるものですよね。
それが大人になって、家を守るとか親の面倒をみるなどの
局面において人生を左右され、
両者の間に横たわる何かがさらに大きくなったりします。
ミノル達の父も、弁護士の兄と確執があるように。
兄弟だから許せる場合と、ずっと根に持ってしまう場合と、
その心理は複雑です。
その複雑さが裁判での証言にも影響して、
記憶が歪められてしまいます。
このあたりの吊橋の映像の出し方も上手くて、
いちいち、これが真実だなどと思わされてしまった。
記憶なんて曖昧なもの。その人の思い込みで変化してしまうのだ。
この先の「追記」は私の勝手な解釈です。
私自身、しがらみの中でアップアップしてきた人間なので、
どうしても兄側に感情移入してしまって、
その心理ばかりを追う事になりました。
「ギルバート・グレイプ」も似たような状況だったなあ。
彼の場合は次男だったけど、長男が先に家を出たために、
田舎に(家に)留まらざるを得なくなってしまったんですよね。
自分が家を出たら 周囲が困る事が目に見えていて、
どうして出て行ける?
後に残された者は選択肢を奪われるんです。
兄のミノルはどうしようもない状況を受け止めるしかなく、
自分の中の衝動を奥に閉じ込めて、日々をこなしていました。
だけど、人が一人死んだ出来事で、蓋が壊れてしまう・・・
小さな田舎で裁判沙汰になれば普通に生きてはいけません。
もういい、もう良い人である必要もない。
こんな事でもなかったら自分の生活に変化はなかった。
一回目の弟の面会で、タガが外れ、今までの不満を爆発させます。
自分が大切にしてきた女を、大切にする気もない弟に
簡単に寝取られた事は大きかったでしょう。
兄「俺ばっかりだよ」「しょせん、つまらない人生」
弟「俺は逃げてばっかりの人生だよ」
兄「つまらない人生から、だろ?」
このように、初めて兄の内面が暴露されていきます。
兄だけは信じられたし繋がっていたと思っていた弟は、
痛い所を突かれた思いだったのでは。
2回目の面会では、さらに兄がいつもとは異なる様子になっています。
弟の証言の直前なのに、弟を激高させるような事を言います。
私には、わざと怒らせたかのように見えました。
次の弟の証言するシーンと併せて考えてみると、
この面会で兄は弟にカマをかけたんじゃないでしょうか?
前にチエコのお酒についてカマをかけたように。
本当に兄を思っているなら、弟は一貫して
兄の無実を主張するはずです。
ところが当日、弟は急に逆の事を言い出した。
(弟の証言が嘘だった事は後に観る者に分かります)
兄は全く表情を変えず冷静でした。
思った通りの結果になったからです。
その時の感情のみで後先考える事なく行動する・・・
それが自分の知っている弟だ。やっぱりな。
最後に兄は弟から視線をそらします。
この時、兄はしがらみを断ち切ったんです。
田舎から自由になる、そんな思いで素直に判決を受けたんです。
7年の服役中、弟は一度も兄の面会に行ってないし、
出所日も気に掛けていません。
「本当の兄を取り戻すために証言します」は
口から出まかせだったと分かります。
それでも、子供時代のフィルムを見て、
弟は自分がやってきた事のむごさに初めて気付きます。
「僕が奪って、兄が奪われた」「吊橋を踏み外したのは僕だった」と。
ここでやっとだよ!
最後の「お兄ちゃん、うちに帰ろうよ」には泣けたけどね。
兄の笑顔は満面の笑みではありませんでした。
兄はしがらみを断ち切り、自由になる為に
7年間の刑務所暮らしを受け入れたんだから
(それ以外に、どんな理由があると思います?)
簡単に家に帰るわけないじゃない。。。
ただ、血の繋がりというものは、切っても切れないから、
いずれまた笑って会える兄弟になれるかもしれません。
今は兄を自由にしてやって、と私は思います。
弟も、あの父の面倒を少しでもみれば、
お兄ちゃんの気持ちが分かるよ。
その立場にならないと、その人の心情は理解できないものだから。
この解釈は、人それぞれの兄弟観が出ますね。
私は根に持つタイプかもしれない。。。(^_^;
自分自身の心理がえぐり出されて、恐ろしいわあ。
ああ、また長くなった。すいませんでした。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
どうしても兄側に感情移入してしまって、
その心理ばかりを追う事になりました。
「ギルバート・グレイプ」も似たような状況だったなあ。
彼の場合は次男だったけど、長男が先に家を出たために、
田舎に(家に)留まらざるを得なくなってしまったんですよね。
自分が家を出たら 周囲が困る事が目に見えていて、
どうして出て行ける?
後に残された者は選択肢を奪われるんです。
兄のミノルはどうしようもない状況を受け止めるしかなく、
自分の中の衝動を奥に閉じ込めて、日々をこなしていました。
だけど、人が一人死んだ出来事で、蓋が壊れてしまう・・・
小さな田舎で裁判沙汰になれば普通に生きてはいけません。
もういい、もう良い人である必要もない。
こんな事でもなかったら自分の生活に変化はなかった。
一回目の弟の面会で、タガが外れ、今までの不満を爆発させます。
自分が大切にしてきた女を、大切にする気もない弟に
簡単に寝取られた事は大きかったでしょう。
兄「俺ばっかりだよ」「しょせん、つまらない人生」
弟「俺は逃げてばっかりの人生だよ」
兄「つまらない人生から、だろ?」
このように、初めて兄の内面が暴露されていきます。
兄だけは信じられたし繋がっていたと思っていた弟は、
痛い所を突かれた思いだったのでは。
2回目の面会では、さらに兄がいつもとは異なる様子になっています。
弟の証言の直前なのに、弟を激高させるような事を言います。
私には、わざと怒らせたかのように見えました。
次の弟の証言するシーンと併せて考えてみると、
この面会で兄は弟にカマをかけたんじゃないでしょうか?
前にチエコのお酒についてカマをかけたように。
本当に兄を思っているなら、弟は一貫して
兄の無実を主張するはずです。
ところが当日、弟は急に逆の事を言い出した。
(弟の証言が嘘だった事は後に観る者に分かります)
兄は全く表情を変えず冷静でした。
思った通りの結果になったからです。
その時の感情のみで後先考える事なく行動する・・・
それが自分の知っている弟だ。やっぱりな。
最後に兄は弟から視線をそらします。
この時、兄はしがらみを断ち切ったんです。
田舎から自由になる、そんな思いで素直に判決を受けたんです。
7年の服役中、弟は一度も兄の面会に行ってないし、
出所日も気に掛けていません。
「本当の兄を取り戻すために証言します」は
口から出まかせだったと分かります。
それでも、子供時代のフィルムを見て、
弟は自分がやってきた事のむごさに初めて気付きます。
「僕が奪って、兄が奪われた」「吊橋を踏み外したのは僕だった」と。
ここでやっとだよ!
最後の「お兄ちゃん、うちに帰ろうよ」には泣けたけどね。
兄の笑顔は満面の笑みではありませんでした。
兄はしがらみを断ち切り、自由になる為に
7年間の刑務所暮らしを受け入れたんだから
(それ以外に、どんな理由があると思います?)
簡単に家に帰るわけないじゃない。。。
ただ、血の繋がりというものは、切っても切れないから、
いずれまた笑って会える兄弟になれるかもしれません。
今は兄を自由にしてやって、と私は思います。
弟も、あの父の面倒を少しでもみれば、
お兄ちゃんの気持ちが分かるよ。
その立場にならないと、その人の心情は理解できないものだから。
この解釈は、人それぞれの兄弟観が出ますね。
私は根に持つタイプかもしれない。。。(^_^;
自分自身の心理がえぐり出されて、恐ろしいわあ。
ああ、また長くなった。すいませんでした。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画