海を飛ぶ夢
2008-02-26(Tue)

監督:アレハンドロ・アメナーバル
製作:2004年スペイン
出演*ハビエル・バルデム *ベレン・ルエダ *ロラ・ドゥエニヤス
約束しよう。
自由になった魂で、きっとあなたを抱きしめる。
「潜水服は蝶の夢を見る」の宣伝で、この「海を飛ぶ夢」を思い出し、
昨日、アカデミー賞でハビエル・バルデムが助演男優賞を獲得したと聞き、
やっぱりこの作品の事を書こうと思いました。
以下、以前に観て書いた感想を基にしたものです。
これは、尊厳死という問題に、真っ正面から
取り組んだ深い作品です。
実在の人物の手記を基にしてるってところが、
またショックで、強く胸を打つんです。
淡々としたタッチなのに、涙なくしては観られませんでした。
事故で四肢麻痺となり、ベッドの上のみで暮らして26年の
ラモン(ハビエル・バルデム)は、いつも部屋の窓から外を眺め、
想像の世界で空を飛ぶ夢をみていました。
そんなラモンは尊厳死を認めて欲しいと裁判を起こします。
ただ、自暴自棄になって死にたいと言っているわけじゃないんです。
ジョークも上手い明るい性格で、いろんな人と交流し、
周りから愛されている状況なんです。
自分の生と死に対しても、冷静に見つめ考えてきた人です。
「生きる事は権限ではない。義務だ。」と言う言葉は
重くのしかかってきたなあ・・・
想像を絶する26年間だったんでしょう。
当事者でなければ理解できない心境ですよね・・・
でもね、「良い事は何もなかった」と言い切ってしまう
ラモンの考え方は、ちょっとだけ自己中心的にも見えたなあ。
ラモンの場合は、周囲との関係性から死を望んだんじゃなくて、
本当に自分自身独自の「尊厳」という定義にこだわったんですね。
周囲の人達は、あり得ないほど、献身的で愛情に満ちています。
誰もラモンの死を願ってなんかいないんです。映画の話ではね。
老いた父。
責任感ある兄。
ラモンを息子のように思うと言う兄嫁。
無垢な甥。
自分も病に悩みラモンに共感するフリア。
自分の寂しい境遇をラモンで埋めようとするロサ。
安楽死の希望を理解しようとするジェネ。
全ての人がラモンに優しい。
たった一度だけ兄が「おまえの奴隷だ」と本音を言ってしまうけど、
それでも、長年ラモンを疎ましいと思う事なく、
本当に愛情を注いでいる様子が伺えます。
周囲との関係性の中では、
ラモンは尊厳を大切にされて生かされてきたと私は感じました。
でも、ラモンは「尊厳はなかった」と言う。周囲は辛いよね・・・
自己中心的に見えたのはここのあたりなんだけど。
でもそれはやっぱり人それぞれの基準が違うように、
ラモンの考える尊厳というものが、
きっと、自分の意志通りに行動できる事にあったからでしょうね。
夢でみるように空を自由に飛んでみたかったんだね・・・
この映画の中で、甥が「おじいちゃんは役立たずだ」と言うと、
「おまえはいつかその言葉を後悔するだろう」と言われるシーンがあります。
この尊厳死の作品は、これから先の高齢化社会における
「老い」という問題とも重なってくるんですよね。
老いを迎えて、人の手を借りなくては生きていけなくなったとしたら・・・
これはもう、四肢麻痺の人たちだけの一部の問題じゃなく、
私たち全てが対峙するであろう精神の問題とも重なって不安になります。
尊厳を持って生きる、そして死ぬという事を、
多くの登場人物がいるように、いろんな角度から見せられるので、
本当に考えさせられます。
ラモンと対比するように、
生まれる命や、
生かされて何も判断できなくなり、
尊厳死すら理解できない人も出てきます。
私は何でもかんでもそれを容認するわけじゃないけど
死を選択する生き様もありなんじゃないかと、
結局は、ラモンの行動には共感してしまいました。
元気な頃のラモンの写真が若々しくて悲しかった・・・
メイクの技術の高さと抜群の演技力で、
すっかり老け込んで見えた! これはすごい。
海の上を飛んでいく映像が、これまた美しくて、心に沁みる~~!!
もう、この映画はたまりません。
2004年アカデミー賞外国語映画賞受賞