隠された記憶
2007-11-16(Fri)

監督:ミヒャエル・ハネケ
製作:2005年 フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア
出演:*ダニエル・オートゥイユ *ジュリエット・ビノシェ
送られてきた1本のビデオテープ
それは記憶の底に隠された無邪気な悪意
どうも、私はこのハネケ監督と相性が悪いみたいです。
以前には「ピアニスト」にも閉口しました。
主人公の孤独や歪みを理解したいなどとは一切思えず、
ただ不快だった事を思い出しました。
今作も観終わって、「は~? ちょっと待てい!」と、
エンドロールに向かって叫びましたよ。なんと言う、唐突な幕切れ。
「息子のまなざし」もこんな形でした。
両方とも全く音楽の流れない映画で、突然シャットダウンしたなあ。。。
でも、あの作品は、答えがなくてもいいヒューマンドラマでしたよ。
こちらの作品は、気味の悪い事件が起きて、
主人公もずっと犯人捜しをしていたミステリー仕立てじゃないの?
それなのに、答えを用意されていないとは。
ものすご~く消化不良で気持ち悪い。
ハネケは、意図してそうしたわけです。
元々、この作品は、犯人捜しはどうでも良かったんですね。
それが分かった時の徒労感・・・ ε-(´o`; ハァー
とにかくこの映画は、唐突づくめ。もちろん計算した上での。
出だしも、途中のショッキングシーンも、ラストも。
最初、ある建物を固定カメラでずっと長回しで撮った
映像が続きます。すると突然、巻き戻し画面になる。
つまり、それまで見せられていたのはビデオの映像だったんです。
この手法には やられたわ~
今作品で、3~4度くらいは、同じ手法にやられます。
主人公ジョルジュ(ダニエル・オートゥイユ)の元に
送りつけられる盗撮ビデオは、数を追う毎に、
ジョルジュの身辺に近寄ってきている内容になり、
奇妙な絵まで同封されるようになります。
得体の知れない不安や恐怖に精神的に追い詰められていく・・
何本目かのビデオに、自分の生家が映っていた事から、
ジョルジュはある人物に思い当たります。
ネタバレあります
このあたりで、フランスにおけるアルジェリア人への
人種差別が浮き彫りになったりするんだけど、
「オールド・ボーイ」にあったような、
やった側は些細な事で忘れてしまっていても、
やられた側は人生が変わる程の大きな事で、
どうにも忘れがたいという意識のズレを描いているんでしょうか。
それとも・・・?
ジョルジュの中で、封印して心に隠されていた記憶が
蘇りますが、「自分は悪くない、子供だから仕方なかった」と
言い訳で蓋をするんですね。
罪悪感を認めたくないが、やましさがウズウズする。
それで、相手の家を何度も訪れて威圧的な態度をとる、
と言う、ジョルジュの常軌を逸した状態が、
実にうまく表現されています。
もし、自分のやましさと正面から向き合って、
謝罪の気持ちが芽生えたなら、悲劇は終わったのでは?
唐突なラストの長回しは、私には盗撮映像に見えました。
ジョルジュの息子に話しかける映像で、
さらに脅しが続くように見せていました。
誰が脅しているのか分かりませんが・・・
わざと分からなくしてあるんですから。
映画の幕切れに、徒労感・不快感を感じながらも、
いろいろと考えを巡らすはめになるとは、
ハネケの意地悪な術中に陥ってしまったわけですね。
なんともはや、悔しいような、あっぱれなような・・・
カンヌ国際映画祭監督賞など3部門で受賞したそうです。
評価の高い作品かもしれないけど、好みじゃないなあ。